これは、9月9日に行われた、@nifty BBフェスタの名古屋会場での1コマです。 若干、赤味がかった画像ですが、白いテーブルの上に置かれたZくんの頭、壁には古賀さんの「どうでもいいことを大々的に宣伝します」 で使われたプラカード や、住さんの「毛むくじゃら」で使わ れた着ぐるみが展示されています。 デリポ的には当たり前の風景 世間一般の方々が持つであろう感想は不明ですが、デイリーポータルZ的には、極めて普通の展示風景とみてよいでしょう。 しかし、普通の風景を伝えるデジタルカメラの目は、私たちとは全く違った印象でこの光景を眺めていることに気付きました。 まず、後ろの貼り紙に注目してみましょう。 私たちは何気なく「大きな字が書かれた白い紙」と答えると思いますが、機械の目は、そう見ていないようです。 例えば、赤丸で囲まれた紙の一部分、これは白ではなく淡いオレンジ色といえる色をしています。 想像以上に色が付いていて驚かされる。 面積を大きくするために、この色で四角を塗り潰してみましたが、想像以上のオレンジ色であることに驚かされます。 おそらく、これを白色という人は、まず居ないでしょう。 また、Zくんの目の部分、全部が白目ですが…、これも白いと思って油断していると、実はこんな色をしていました。 本当に「白目」の部分かと疑うような茶色にビックリ 何だか色黒の男性歌手の顔色のようになっていて、軽いショックさえ受けてしまいます。 このように、機械と人間でこれほどの差があるかと思うと、安心してシャッターを切ることも出来ません。 そこで今回は、この両者のギャップを埋める方法を考え、よりフレンドリーなお付き合いを目指してみました。 とりあえず、同じヒトとして人間側の事情を考えてみました。多分、機械の気持ちよりも分かりやすい筈です。 私たちは、一番上の画像を見た瞬間、全体が赤味がかっているにも関わらず、紙やテーブル、Zくんの目などを「白かそれに準ずる淡い色」とほぼ正確にオリジ ナルの色を心に描いているように思えます。 特に、全体の赤っぽさも「光の加減かな?」という程度に考えてあまり意識することはありませんが、実際に、一部を取り出して眺めてみると、その色の違いに 驚かされてしまいました。 このことから、目から入った風景は、そのまま脳に伝えられるのではなく、頭の中で一旦、何らかの「変換」を経てから意識として伝わると考えられます。 大抵は、無意識のうちに経験や知識を引っ張り出して正しい色に変換してくれるのでしょうが、とにかく「白」が分かれば、それとなく全体の色が把握できるの は便利かもしれません。 次は、機械の事情を考えてみましょう。 パソコン、には限りませんが、その画面は細かな点(ドット、ピクセル)の集まりで構成されていて、1つ1つのドットは赤、緑、青の3色から構成されている 事は良く知られています。 これは光の3原色と呼ばれるもので、色の頭文字をとって「RGB」といわれることも、既にご存知の事かと思います。 R、G、Bを混ぜると、それぞれこんな色になります。 これらの3色を単純に組み合わせるだけでは、表示できる色数が極めて少ないため、RGBのそれぞれの要素を段階的に変化させ、多彩な色を表現しているので すが、例えば、赤(R)と緑(G)を混ぜると、黄色になりますが、赤に対して半分くらいの緑を合わせることでオレンジ色を表現する事が可能です。
赤100% + 緑100% = 黄色
赤100% + 緑50% = オレンジ色……ちょっと苦しい? 不思議な話ですが、このまま色の話を続けると、それだけでかなりの分量になってしまうので、これ以上の詳しい話は全部省略します。 さて、前置きが長くなりましたが、今回は、機械に対して人間と同じアプローチを採ることでギャップを埋めようと思います。 具体的には、機械の皆さんに「これが白ですよ」と教え込みます。そうすれば、他の色もおおよそ分かってくれるのではないでしょうか。 別に「これが赤ですよ」と赤色を教え込んでも良いのですが、RGB全ての要素を最大限使って表現される白は、画面の上では上限値、組織で言えばトップにあ たる存在です。 したがって、トップが決まれば下のモノは上に倣え「トップの白様があの色なら、オレ達はこの程度だろう」という実に日本の組織的な方法を採る事にしまし た。 無理矢理にビロ〜ンと伸ばしちゃう事にしました もうすこし具体的に言えば、白にしたい色のそれぞれの要素を「本当は白なんだよ」という事にするために、びろ〜ん、と最大まで延ばして上限値として各色の 係数を算出、それを元にして計算を行います。 比較的簡単な方法ですが、図中の青色成分(B)などは、3割近く引き伸ばされる訳ですから、ある程度表現力が落ちるのは仕方ないかもしれません。 ここで問題は、どうやって機械に白を教え込むか、という具体的な方法になります。 色々と考えましたが、ムダにプログラミングの知識を生かして「これが白だよツール Ver.1.0」というツールを作ってみました。 知識といっても、制作時間10分程度の簡単なモノですが、これを使って白を教えてみようと思います。 「これが白だよツール Ver.1.0」、略して「これ白」、左側の画像の中で、この色が「白だ」と教え込むべき場所をクリックするだけの簡単操作。 マウスカーソルがある場所の色は、左上の四角い部分に表示されますから、おおよその感覚がつかめます。 そして、クリック後は、確認のダイアログが表示されて変換結果が右側に表示される。それだけのシロモノです。シンプル♪ 「これが白だよツール Ver.1.0」の初期画面。ドラッグ&ドロップで画像を読み込めます 例えば、先ほどから使いまわしている画像の中では、プラカードの「隣家の雨戸は」の「の」の字の上あたりが 、適度に明るい部分に見えるので、ここを「白だ」と教えてみると…… 「隣家の雨戸は」の「の」の上を、白だと教えてみました このように、私たちが脳内で描いているイメージに近いものが表示されました。というか、想像以上の効果ですね。 また、ちょっと場所を変えて、Zくんの横、テーブルの明るい部分を白だと教えてみると…… テーブルの天板。本当は淡いクリーム色なのかもしれません。 おお、色合いが不自然にスッキリした感もありますが、やはり私たちの脳内イメージに近いものが表示されました。 適当に作った割に、意外と面白いぞ、これは。 という事で、面白いのでドンドンやってみましょう。 続いては、扇子を持ったべつやくさん。 持っている扇子を白だと教え込むと、ほらこの通り。 べつやくさんと扇子。白がきちんとすると、他の色もきれいになり ます。 やや蛍光灯っぽい行き過ぎな感じもしますが、やはり白を正しく白くする事で、全体のイメージもキチンと表示されます。 でも、ちょっと気になるのは、指定した扇子の「白い」部分が「肌色」に近い事。 元になる「RGB=255,194,150」は、もう、オレンジというよりほとんど肌色ですが、そう考えると、左後ろに写っているTシャツの男性は、人 間の目では「白いTシャツの男性」に見えるのに、機械は「裸で歩いている」と誤認している可能性もあるわけです。 恐ろしい…。 そう考えると、未来から来たネコ型ロボットが、登場人物の女性キャラクターをどのような目で眺めていたのか…。とても興味深いです。 気を取り直して、同じく会場に展示してあった、癒しキャラの「カピバラさん」も見てみましょう。 ニフティの担当S井さんイチオシの、癒しキャラ。 白い子の鼻と目の中間辺りを指定したのですが、思ったより茶色っぽい色ですね。 これでは、機械の目からは薄汚れたヌイグルミにしか見えないかもしれません。 「カピバラさん」もバッチリ。ニフティの担当者S井さんも安心。 でも大丈夫。 適切な場所を白だと教えることで、漂白したかのように白くなりました。 しかし、こうなってみると、人間の目の方が信頼性低いですね。 白だ白だと思っていても、実際はオレンジやら肌色だったりする訳ですから、白を教えてもらわなきゃならないのは人間の方でしょう。 さて、白といえば、白い雲。 ちょっと季節は早いですが、昨年撮影した秋の風景写真がありましたので、これも見てみました。 空を仰いで撮影した1枚の写真、全体的にぼんやりして、秋晴れらしい感じもしますが、あえて白い雲を、白にしてみました。 秋晴れと黄色くなったイチョウ…だったかな?@京都御所 どちらが写真として優れているかは別にしても、白を白くすると、全体が鮮明になる事が分かります。 鮮明になったついでに、何だか濃淡がハッキリしてしまって秋晴れが夏の昼下がりになった気がするのは私だけでしょうか? この辺りは微妙です。 カメラ片手に色々な写真を撮ってきましたから、中には、今回のテーマに対して、実に有用な写真もありました。 何年か前の大雪の時に撮影した写真です。 雪国の方には笑われますが、愛知県ではこのような雪は珍しく、私もいつもより数時間早く会社に出社したくらいです。 まぁ、若干早すぎて、夜が明けたばかりだったりして、映像が薄暗い訳ですが……。 これだけ降れば「大雪」で街は大混乱。って、四駆じゃん、自分! で、こんな薄暗い雪の朝の画像。 人間が見れば「ああ、雪景色だ」と白い雪を脳内に描きますが、ボンネットに積もった雪でも、ご覧の通り、水色が若干くすんだような色。 とても、これだけ見れば白には見えませんが、これを白と教える事で、イメージに近い雪景色を得る事が出来ます。 何だか、機械に白を教えているんじゃなくて、人間の目の不確かさを実感するツールになっていますね。 もう1つ。こちらは、とあるフィギュアを撮影したもの(注:貰い物です!) 蛍光灯の下で撮影したため、ちょっと青っぽくなっています。 彼女ご自慢の白いエプロンも、機械の目から見れば薄汚れた灰色のエプロンですが、「これ白」を使えば、キチンとした色になります。 む、む、胸元をクリックさせてもらいました。 これで、薄汚いエプロンをつけさせられて虐待されているのではないかという、シンデレラ的状況は妄想となりました。 また、エプロンではなく髪の明るい部分、きれいな髪の人に見られる「天使の輪」の部分を白だと認識させると、これはこれで青みが消えて可愛らしくなりま す。 「天使の輪」をクリック。思ったより青くない事に自分でもビック リ。 青みが消えて、クッキリ鮮やかに?! ふと想い出したのは「伝説の青(?)」 ひょっとしたら、アレが元に戻せるのではないかと試してみました…… 食欲を減退させる色合いセットが、昔から置いてあるメニュー写真 のようになってしまった。 が、結果は上の通りでした。(画像は「青くす る実験(大塚さん)」より) 根本的に色合いを変化させるモノではないので、これは仕方がないでしょう。残念。 やや色が淡くなった青ライスと、不自然に鮮やかになったベーコン&エッグ。まるで出来の悪い食品サンプルです。 という事で即興プログラム「これ白」を使って、機械に白色を教えてみましたが、如何でしたか? 適切に教えれば、機械だってキチンとしたイメージで見ることが出来るのだ、ということを書くつもりが、人間の目の不確かさを再認識させる事になってしまい ましたが、これで、機械と人間の間にある溝が少しでも埋まれば、と思います。 ところで……わざわざプログラムを組んで白を教える必要はなく、たいていのフォトレタッチソフトについている「レベル補正」の機能を使えば、同等かそれ 以上の事が簡単に実現できたりします。 「Adobe Photshop Elements」での「レベル補正」画面 また、デジタルカメラのホワイトバランスを適切に設定すれば、それなりに白をキチンと認識した画像を記録してくれます。 おそらく、多くの方が書かれた会場レポートには、まともな色合いの画像ばかりが掲載されている事と思いますが、これもキチンとホワイトバランスの調整が働 いているからです。 という事で、これらの仕組みが組み込まれている筈の、未来のネコ型ロボットは、正確な色で世間を見ているに違いありません。 むしろ正確な色を見ていないのは人間の方でしたね。 ちなみにRGBの各成分を平均して、青だけ3割ほど控えめに表現するよう「これ白」プログラムに手を加えると、こんなセピア調の画像が出来上がります。 RGBを平均化して、青だけ0.7倍してみた「セピア調」 フォトレタッチソフトの機能を使えば、数回クリックするだけで済むような事を、わざわざプログラムを作って検証する事に意味があるかどうか分かりません が、こうやって仕 組みを知ることは悪い事じゃないでしょう。 無駄に長くて小難しいカタカナ用語で占められた多くの機能も、その中身は意外と簡単な仕組みでできている事が分かると、より使いこなしに興味が湧くのでは ないでしょうか。 まぁ、一番大切なのは、最初から適切な設定で撮影する事だと思いますが……。 また、人間の目は、かなりあてにならないなという事も分かりました。 白だ白だと思って取り出してみてみると、全く似ても似つかない色じゃないかビックリ!、という状態で、実は自分でも驚いたほどです。 いかに人間の目が高度な適応能力を持っているかを思い知らされました。 最後になりますが、「これ白」、ちょっと改造すると、白黒で逆転させる事も可能です。 自作ツールなので、やりたい放題。プログラミングでこうやって遊ぶのも悪くないなと思いました。 白黒逆転も思いのまま。てゆうか、ホラー。ギャッ! |