万物は流転するが、諸行は無常。 行く川の流れは絶えずと言えど、全てのものはやがて土に還る。 偉い学者センセイが、熱力学の法則を持ち出さなくても、おおくの古人が、この世が行き着く絶対的な熱量死の瞬間を予言している。 生き物限らず、草や花、木々や岩でさえも土に還る。 もちろん、人の作りし物も例外ではない 人知れず、山の中で朽ちる車。 いわゆる不法投棄という行為だろうが、ニンゲン様の都合で考えた法律とは無関係に長い時間をここで過ごしていたのだろう。 ニンゲン的な感覚で言うところの「ゴミ」を通り過ぎた、威厳すら感じさせるその姿。 その姿は、土に還るか、木と同化するか、最期の時を選べずにいるようにすら見える。 いや、その選択肢すら選ぼうとしない何かを感じてならない。 ------------------------- やぁ、こんにちは ずいぶん、久しぶりだよ。ボクにわざわざ近寄ってくれる人が来てくれるなんて。 ねぇ、どこから来たの? ボクは、もうどこから来たのか忘れちゃったよ。 何時からかなぁ、ここにいるの。もう、ずいぶん前のことで、ぜんぜん思い出せないや・・・ そうだ、自慢の運転席を見ておくれよ。 どうだイカすだろ? ここに座ったご主人様と一緒に、色々なところを走ったんだ。 風を切りながら走ったんだ。 季節の風って素敵だね。春の風、夏の風、秋に冬。 ここにいても、季節の移り変わりを感じる事は出来るけど、走って感じる風とは違うんだね。 そうそう、太陽の下も走ったよ。 もちろん、雨の日だって走ったんだ。 雨の日は、泥で汚れるからあまり好きじゃないけど、ご主人様が洗ってくれたから。 嬉しかったなぁ。 ハンドル握っているご主人様は、笑っている日も、怒っている日も、ボクに乗ってくれたんだ。 泣いていた時もあったけど、ボク、何も出来なくて。ごめんなさいも言えなかったんだ。 ねぇ、前から見ると、ボク、なかなかハンサムだろ? これなら、まだまだ走れるんじゃないかと思うんだけど、どうなのかな。 ボク、自分じゃ自分の姿が見えないから、よく分からないんだけど、走れるんじゃないかな。 また、いつかのように。 やぁ、空が高いなぁ。 もう秋なんだね。 こんな天気のいい日には、どこかにドライブ行きたいなぁ。 またいつかのように。 ご主人様と一緒に。 |