な、なんだこれはぁあああ?! これが、シュールストレミングを開けた時の率直な感想だ。 いや、同僚だんて某氏が入手されたという、シュールストレミング。 しばしば、テレビで罰ゲームか珍味の番組で登場する、腐った魚の缶詰だ。 購入した同氏の「臭い缶詰と年越しをしたくない」という意向を汲み早々に実施したが、北風吹き荒れる寒い日でも晴れていたのは幸いか。 さて、集まったのは主催者たんて氏に、同僚コロさん(仮称)、そしてOhyoi3と私の計4人。 某運動公園の川辺は、夏場はバーベキューなど行うグループの多い場所だが、この時期は皆無。 多分、迷惑にもならないだろう。 大仰にテーブルなど用意され、ガスコンロまで並ぼうとしている。 なんとも手慣れたキャンプセットだが、荷物には缶詰の他、見慣れない食材と思われるモノがチラホラと見えている。 ディリーポータルZの記事で、タマネギとトマトが合うというのを読んだ氏が用意してくれたが、果たしてそこまでの余裕があるか? ひとまず、コンロもセットされ、機材の方の準備は万端。 続いては、体の準備である。 ゴム手袋は当然、場合によっては開缶時に「汁が飛び散る」という話もあるらしいので、雨合羽も装備。 残るは、心の準備である。 さぁ、これがシュールストレミングだ。 シンプルな色使いのデザイン。 意外と堅い缶詰に、100円ショップの缶切りでは多少役不足のようだが、穴が開いた瞬間、プシュっという音とともに、泥汁のような色をした液体がジュル ジュルと漏れ出てくる。 幸い、プシュ!は最初の1発だけで、後は普通の缶詰だが、続々と流れ出てくる泥汁に、タダならぬ事態を予感させる。 あ、臭いを確認しなきゃ。 泥汁に気を取られていて忘れていたが、確かに開けた瞬間に『わぁー、にげろー』と逃げ回るような状態ではなく、むしろ『あれ?思った以上に大丈夫じゃ ん…』という状態。 もちろん「じゃん…」の後の「…」の直後に否定語が続くんだがなぁ! 『あれ?思った以上に大丈夫じゃん…臭せぇ!』 腐臭とは違う形容しがたい濃厚な泥汁臭、でも、本能は明確に「食べちゃらめえぇええぇ」と危険信号をビンビン発している。 缶が開いた。 出てきたモノは、まるで生ゴミである。 これを食べている方々には失礼な表現だろうが、現時点では、他に思い当たらない。 そして、鮮魚売場の裏方のゴミ箱のような状態だが、これは「食べ物」であって、その上「この後、我々が食べる」物体なのだ。 うーむ、躊躇する。 人間、何か、やるべき事があり、すでに覚悟を決めたつもりで臨んだモノの、想像を超えていて尻込みしてしまうことがあるが、まさにその状態。 いや、この場に臨んだメンバー全員が思ったに違いない。 うーむどうするべぇ、これ… 風があるだけマシだが、この強風の下でさえ、近くに寄ればこみ上げるような臭いが鼻に届く。 固まること数分後、ひとまず、状態を確認する。 わぁ、効果音は「でろーん」かなぁ。 ヌルっとして、ドロっとして、やはり食べる予定で残しておいたものじゃなくて、忘れておいて腐っちゃった魚だ。 しかし、意外と身はキレイだ。 妙な光沢はあるものの、淡いピンクというか肌色の肉は、高級料亭で「昆布じめにしておきました。」と言えば、画像だけなら通用する色だ。もちろん、臭いは 除く。 さて、眺めてみても仕方がない。 マンガ家の西原理恵子さんは、「これ、食べられないんですぅ、は仕事だから通用しない」とプロ根性を見せられていたが、せっかくの機会なので食べてみな きゃ分らない。 ひとまず、小片に取り分けようとするが、やや粘り気のある身は比較的簡単にフォークでちぎれるが、皮の部分はちぎれない。 とは言え、私自身、お恥ずかしい話だが「魚の皮」はあまり好きじゃない。 シャケの切り身の皮はもちろん、出来ればシシャモの皮も遠慮したいと思うくらいなので、このちぎれない皮は「仕方がない」という事で、まず、身を一口。 うぅうむ。 口の中に湧き上がる臭みだが、それよりも「しょっぱい」がくる。 臭い上にしょっぱい。 ドロリとした臭いものが口に入った事への拒絶反応か、単なる塩辛いモノへの反応か。 ただ、口に入れてしまえば多少は臭いが緩和され、次第に「しょっぱい」方が勝ってくる。 確かに、単品で食べるのは無理だわ。 そういう事で、用意したフランスパンを口に入れる。 バクバク食べられるのは、塩辛い漬物で御飯が進むことと同様の感覚。 入っている魚は半身単位だが、半身の1/3が口の中の塩分濃度の上限値、出来れば1/4くらいを1口として食べるのが良さそうだ。 魚の身1切れで、1センチ厚に切ったフランスパン1片を食べ終えた私の様子を見て、たんて氏とコロさん(仮称)が動きを見せる。 うん、Ohyoi3は刺激物食べると、すぐに下からでるかもしれないので、遠巻きに観察で。 とくに、コロさん(仮称)は「思い切って」、1切れを口に入れようとするが、臭いよりも塩分のことがあるので、さすがに半分にした方が良いとオススメす る。 たんて氏も、ネタより保身ということで、キチンと少量に切り替える。 複雑な顔だなぁ。 コロさん(仮称)など、むしろ表情に出ない人なのだが、いまだかつて見たことのない表情の顔をされている。 さて、私自身は臭いのだけれど、パンと一緒なら大丈夫というレベルだ。 ただし、あえて食べようと思うような「食べ物」ではなく、「塩辛い調味料」と言った印象か。 相変わらず強靭で、フォーク程度じゃ簡単に切れない。 身だけを取り出して、一口食べると、パンが1切れ食べられる。 ただ、誰もこの味を正確に語れない。そういう類の味なのだ。 一番、皆が納得できた表現は、複雑な顔をしていたコロさん(仮称)の口から出た「腐ったシーチキンのよう」という表現。 ああ、確かに、魚じゃなくて魚加工品が腐っちゃった感じだ。 こうやって眺めると、ほら、立派な昼下がりのフィッシュ・ランチでしょ? 臭いさえなければね。 さて、慣れてきたところで、合うとされたタマネギとトマトを登場させてみた。 まず、タマネギだが、これは一時的な刺激として臭さを緩和させる働きがあるものの、根本的な解決にはならない付け合せのようだ。 臭み消しとしてないよりマシではあるが、特に推奨するものでもない。 一方、トマトはさすがに塩と相性が良いので、これは悪くない。 シーフードのスパゲティのトマトソース、とは雲泥の差だが、発想はそういう方向。 かなり臭み消しの効果があり、食べやすさは増す。 ネタや興味でシュールストレミングを食べようと思っている方々の参考になれば幸いだ。 また、参考と言えば、フォークより箸が便利だ。 ヌルヌルしているので箸の方がつまみやすいので、格段に食べやすさが増す。 たんて氏が妙なクラッカーを登場させた。 薄っぺらなクラッカーで、味はほとんどない。 しかし、味がない事は、むしろしょっぱい魚の身に合うので、このクラッカーは当たりだ。 この理屈で行けば、コーンフレークの砂糖なしなら合うんじゃないかなぁ、と思う。 あ、前言撤回。タマネギは必須です。 滲み出た脂というか腐れ汁は、油断するとあちこちに流れ落ちる。 ヘタすると、気付かぬうちに手についたり、服にたれたりするだろう。 そういうところで、タマネギは良質なトラップになる。しかし、汚い絵面だなぁ。 骨は見えているが口に触る事はない。 相変わらず皮は固いので、食べようとは思わない。むしろ、身だけなら慣れてくると意外と食べられるんじゃないだろうか。いや、個人差もあるが、これは食べ られるレベルだな。 もちろん、あえて食べようとは思わないが(笑) 強風の下、悲惨なランチは続く。 パンにバターを塗ってご満悦のOhyoi3を除く(笑) 惰性的に、身を一口食べては、パンを1切れ食べるというルーチンワークに飽きが来た頃、たんて氏がドイツのライ麦クラッカーとやらを登場させる。 半生だ。 真面目なドイツ人が作った食い物だから、それなりに美味い筈だ。 同盟国の味覚に期待! 期待したオレが悪かったよ。 シュールストレミングの小片は、美味いとも不味いとも言い難いレベルだが、このクラッカーのような物は、口に入れてすぐに「不味い」と思った。 もう、ウインナーとジャガイモとビールだけ食べてろ、とか言いたくなる。あ、キャベツもね。 (暴言は、寒いのと臭いのせいです。大目に見てあげてください。) 寒い中、2時間かけて2〜3尾と大量のフランスパンを胃袋に入れただけでギブアップ。 いや、美味い物なら食べ続けられるが、義務で食べ続けて、半ばフランスパンだけで腹が膨れてしまう状況では、もう限界だ。フランスパンで。 たんて氏の話では、カラスなどは平気で食べる、との事なので、あえて焼却炉で灰にするよりも目の前の川にリリースする。 下流で魚が浮くかなぁ、浮いたらゴメンなさい。 でも、後から観察していたら、カラスが見つけて慌ててくわえて逃げていったので、多分、彼らにとっては「食物」として許容範囲の位置にあるのだろう。 さて、少し時間が経ってからの事だが、私とたんて氏、コロさん(仮称)で多少変化があった。 全く私自身は大丈夫で、臭いもさほど残らなかったのだが、他の2人はゲップが臭いとか、多少、胃にもたれるという状況になった。 これは何が違うのか? 推測の域を越えないが、皮を食べたか否かの違いじゃないだろうか? 特に、最初に半身の半分を食べたコロさん(仮称)は、口に入れた時のショックで思わず飲み込んでしまったと言われていたが、私は常に普通の食べ物として咀 嚼し て食べている。 皮が原因か、丸飲みが原因か、その真相は分らないが、次に食べようと思っている人は何か参考になれば幸いである。 一応、まとめておくと、
こんなところだろうか。 あと、Ohyoi3のように食べない人が1人くらい居た方が良いかも知れない。 皆が、義務のように淡々と食べつづけている悲惨な光景よりも、こういうペット的存在な人間をイジメながら食べた方が変化があって宜しいだろう。 しるこを温めてご満悦のOhyoi3 何にせよ、珍しい食べ物を食べる機会に立ち会えたのは、良かったか。 臭いと食欲の関係や、発酵と腐敗の境界線について考えながら食べているようで、そんな事は全く考えないまま、知らない間に2時間も寒空の下で過ごした昼下 がり。 ひとまず、ご馳走様でした。 追加情報: 家で開けた「しらたき」のパック、開封した瞬間に漂う生臭さがシュールストレミングに一番近いかも。 |